アルナーチャラム

踊るスーパースター

アルナ ムトゥの大ヒットを受け、満を持して作られたのがこの作品。日本では９９年公開。ラジニ・カーントが製作を担当している。
サブタイトルの「スーパースター」ってのはラジニの称号。映画の冒頭でも「ハイッ、ハイッ、ハイッ、ハイッ」という掛け声とともに「ＳＵＰＡＲ　ＳＴＡＲ」の文字が飛んでくる。そのスーパーぶりは、この映画でラジニをいじめるばあちゃんの役をやった女優が表を歩けなくなったり、他の役を降ろされたりしたくらい。
「踊る」って付けちゃうところが配給会社の３匹目のどじょう狙い(笑)。でも、踊るんだから、看板に偽りはない。

【登場人物】

アルナーチャラム（ラジニ・カント）：タミルナドゥの田舎で弟２人と妹の４人兄弟の長男として大富豪の家に育てられる。ところが・・・。

アンマイヤッパン（ラヴィチャンドラン）：アルナーチャラムの育ての父。田舎の大富豪。
アルンダティ：アルナーチャラムの妹。お話の前半で結婚。
怖いおばあちゃん（ヴァディヴァッカラシ）：アンマイヤッパンの母。背骨が曲がっていつも怖そう。アルナーチャラムに辛く当たるが、そのわけは・・・。

アリヴァラハン（センディル）：アルナーチャラムのポン友。マドラスでは映画スターに（笑）
ヴェーダヴァッリ（サウンダリヤー）：アンマイヤッパンの姪。マドラスから従姉妹アルンダティの婚礼に出るため、初めて母のふるさとを訪れ、そこでアルナーチャラムと出会う。
アヒラーンダムおばーちゃん（マノーラマー）：ヴェーダヴァッリの祖母。何でもお見通しのモダンばーちゃん。

カータヴァラーヤン（ジャナカラージュ）：マドラスのパーン売り。田舎から出てきたアルナーチャラムの面倒を見る。ちなみに「パーン」とはスパイスとビンロウジュの実をキンマという葉で包んだ嗜好品のこと。

ランガーチャリ（ヴィス）：マドラスの会社社長。真面目な人でヴェーダチャラムの遺産管理を任されている。
ナンディニ（ランバー）：ランガーチャリの娘。アルナーチャラムに惚れる。「無駄遣い作戦」では秘書役だが、彼女の恋は・・・。

ヴィスヴァナーダン（ラグヴァラン）：ヴェーダチャラムの遺産を狙う悪いヤツ。

ヴェーダチャラム（ラジニ・カーント二役）：アルナーチャラムの父。莫大な遺産を残し他界。

【お話は・・・】

マドラス住まいのヴェーダヴァッリが母の故郷・アランダナッルール駅に列車で到着するところからお話が始まる。アヒラーンダムおばあちゃん、両親とともに、従姉妹のアルンダティの婚礼に参列するために、生まれて初めてやってきたのだ。

駅前の雲助タクシーも、道ばたで喧嘩をしていた夫婦も「アルナーチャラム」の名を聞くとコロっと態度が改まる。一体、アルナーチャラムって誰？（「Adhanda　Idahanda」（そうだ、そうだ）で登場。）

婚礼に準備に沸き立つ母の実家につく。ヴェーダヴァッリの両親は結婚の際、実家の母（ヴェーダヴァッリの怖いばーちゃん）と仲違いをして、２０数年ぶりの里帰り。

母の兄アンマイヤッパンは三男一女をもうけている。アルナーチャラムはこの家の長男と聴き「どの人だろう？」と興味津々のヴェーダヴァッリ。「ほら、あそこに。」と言われて視線をやると、何故かいつも底には小太りで冴えない男。「あれが、みんなが慕ってるアルナーチャラムなの？」　
得心のいかないヴェーダヴァッリ。それもそのはず、ドリフのコントじゃないけど、彼女が見るたびにアルナーチャラムとポン友のアリヴァラハンが入れ替わっていたのだ。自分が見られていると勘違いするアリヴァラハン。

婚礼の準備でバタバタする中、床にこぼれた油で滑ってアルナーチャラムはヴェーダヴァッリとぶつかり、何とファーストキス。謝るまもなく、次は、登っていた梯子が倒れてセカンドキス。なんてまあ、都合のいい（笑）

自分が二度もキスした相手こそアルナーチャラムと知ったヴェーダヴァッリ。キスのお返し、とばかりに麦畑に呼び出し、三度目の・・・。都会育ちのヴェーダヴァッリは積極的。２人で楽しく唄い踊る。川を渡ってる（濡れ場）・・・。（「Nagumo」愛の蜜）

アルンダティの婚礼の式、男女対抗謎かけ歌合戦（「Maathadu　Maathadu」（しゃべれ、しゃべれ））

無事婚礼も終わり、「次はアルナーチャラムとヴェーダヴァッリの番だね。」と両親達がなごやかに会話をしていると、アルナーチャラムの怖いばーちゃんが怒る、怒る、怒る！　「そんなことは許さない。」
ばーちゃんが語るアルナーチャラムの出生の秘密。そう、彼は行き倒れの女性から託された孤児だったのだ。

これを聞いて、ヴェーダヴァッリ一家は予定より早く突然マドラスに帰ってしまう。

もとの生活が戻ってきた。ある日、弟が村の広場で揉めている。村の貧しい娘を孕ませてしまったと、娘の父親が訴えているようだ。
「濡れ衣だ。そんな娘、逢ったこともない。」、そう言い張る弟だが、２人が一緒のところを目撃しているアルナーチャラムは「一緒になれ。」と諭す。「彼女は読み書きもできないし、財産もない。」と開き直る弟に「じゃあ、彼女には俺の財産を全て与える！」と啖呵を切るアルナーチャラム。
と、そこに件の怖いばーちゃん。「自分の財産だって？　そんなもんどこにあるんだ。お前は・・・。」と出生の秘密を公衆の面前でアルナーチャラムに伝えるばーちゃん。

育ての両親、兄弟達も「どんなことがあっても、兄さんは兄さん」と言っている（ような無声シーンが続く）が何もアルナーチャラムの耳に入らない。その晩、長男の印である金の腕輪を眠っている弟の腕に通し、ひとり屋敷を去るアルナーチャラム。

どうする、どうなるアルナーチャラムと（確か、この辺りで）インターミッション
村にはいられないアルナーチャラム。失意のまま、あてもなくマドラスへ。

街で引ったくりを捕まえるが、感謝されるはずの被害者ナンディニからはグルじゃないの？とひどい言葉。その様子を見ていたパーン売りのカータヴァラーヤンと知り合う。カータヴァラーヤンはアルナーチャラムに露天商の仕事を世話。面倒見のいい男である。

ヴェーダヴァッリにもバッタリ再会。家に連れて行かれるも、ヴェーダヴァッリの父は「何をしに来た。誰の子かわからんヤツに娘はやれない。」ととりつく島もナシ。事情を知らないヴェーダヴァッリを残し、立ち去るアルナーチャラム。

そんなある日、またもや、引ったくりに逢うナンディニ。よっぽどチャラチャラしてるんだろう。今度は大事な宝石が入っていて助けを求めてきた。アルナーチャラムはおもむろにラムネの瓶を逃げる犯人に向けて投げる。後頭部にヒットし、見事御用。

「ありがとう、何かあったら私の父の会社に来てね。」と名刺を渡す、実は社長令嬢のナンディニ。

背に腹は代えられず、ナンディニの父ランガーチャリが経営する会社に仕事を紹介して貰いにいく。初めて見るオフィスの椅子でふざけていたら倒れて、肌身離さず首に下げている数珠玉がコロコロと転がっていった。

追いかけた、その先ではランガーチャリが何やら会議中。飛び込んできたアルナーチャラムを追い出そうとするとナンディニが「私の知り合いなの。」。
じっと顔を見ていたランガーチャリが尋ねる。「君の名は？」「アルナーチャラムです。」・・・

さっきから、相談していたのは、アルナーチャラムの実の父ヴェーダチャラムの遺産のことだったのだ。

ヴェーダチャラムは、遺産管理人ランガーチャリに、生き別れになった息子アルナーチャラムを探し、遺産をある条件の下で相続させる、見つからなければ慈善事業に・・・との遺言を残していたのだ。遺言を残したビデオテープが映し出される。初めて見る実の父・・・。

ビデオの中のヴェーダチャラムは、生き別れになった事情を説明し、「３０日で３億ルピーを使い切れば、３００億ルピーを相続させる。」と言う。無駄遣いをした後なら、二度と無駄遣いをしようとはしないから、安心して任せられる・・・というのだ。

しかし、アルナーチャラムは「遺産はいらない。父が立派な人だと判っただけで十分。そのビデオテープだけ頂く。」とその場を立ち去る。

彼が相続を放棄したので、そこに集まっていたヴィスヴァナーダンら４人の男達の慈善事業に全財産の管理が委ねられることになった。

父のことを田舎のみんなに知らせたい。アルナーチャラムはバスに乗る。が、そこで小猿が。アルナーチャラムの大事な数珠玉を持って逃げてしまう。追いかけて木に登ると、そこからヴィスヴァナーダン達の会話が聞こえる。「息子もいなくなった。この金は俺達のものだ。。」父の遺産が慈善事業ではなく、こいつらに使われてしまう・・・。会議室に乗り込むアルナーチャラム。「３０日で３億、使ってみせる。」

この「３億ルピー無駄遣い」には、「他人にあげてはいけない」「財産を残してはいけない」「無駄遣い中であることを他人に言ってはいけない」という３つの条件があった。これを守って、れっつ無駄遣い！！

事情を知らないナンディニが会計担当秘書として付き、カータヴァラーヤンを参謀に無駄遣い開始。まずはホテルを借り切って、田舎からアリヴァラハンたちを呼び寄せる。田舎者の彼たちは、上下する小部屋（エレベータ）に住みたがり、ホテルのプールで沐浴をする（笑）

こんなの序の口と、まずは無駄遣いのとっかかり映画製作。アリヴァラハンを主役につまらない映画を製作。（ここで、ナンディニの妄想シーン。例のサスペンダー・ダンスあり。）。
その後も、競馬に宝くじ。ところが、つまらないはずの映画が大ヒットの様相、競馬も宝くじも当たっちゃう、どれも、これもヴィスヴァナーダンたちの差し金だった。

事情を知らないカータヴァラーヤンが「当たったぞ」「大ヒットだ。」と喜んで報告すると、どんどん暗くなるアルナーチャラム。金庫の中の札束が増えちゃう・・・。

ついには政治に手を出す。政党立ち上げ！　インドも政治には金がかかるようで、どんどん金庫の中はカラに。ところが相手候補が立候補を取り下げ。これまた、ヴィスヴァナーダンの奸計。議席が残ってしまうと、亡父の条件「財産を残してはいけない。」に引っかかる・・・。

さて、ヴェーダヴァッリの父は保証人になり借財を抱えた。にっちもさっちもいかない。アルナーチャラムに頼んでくる、ヴェーダヴァッリがやってきた。２人っきりで話したかったが、ナンディニを同席させるアルナーチャラム。
ヴェーダヴァッリの願いは、亡父の条件「人に上げてはいけない」に引っかかり、借金を肩代わりしてあげられない。事情が言えないため「金がない」と応えるアルナーチャラムに、「お金持ちになって、あなたは変わった・・・」と怒って出ていくヴェーダ。父の窮状を救うには彼女がお金持ちと結婚するしかない・・・
ナンディニとアルナーチャラムの中を疑うヴェーダヴァッリは、無駄遣い大作戦の最終日に婚礼を決めてしまった。「招待はしないがお知らせだけ・・・」

さて、無駄遣いも何とか無事に終了。ホテルの予約も今日まで。周りでは撤収が始まっている。祭のあとの寂しさが漂う。

大作戦終了の時間まであと１分。ヴィスヴァナーダン達を前に遺産相続の書類にサインをしようとしていると「選挙ポスターが安く印刷できたので。」と２万ルピーを持ってきた男。ヴィスヴァナーダンが仕組んだことだった。万事休す・・・。アルナーチャラム、その２万ルピーを「これはこのひと月の君の給料だ。」とナンディニに渡す。ふーーっ。間に合った・・・と思いきや、ヴィスヴァナーダン、本性をを表す。「生きてここを出られると思うなよ！」
アルナーチャラムの大暴れが始まった。怒る、怒る。ナイフを歯でとめちゃう。

そんなことも知らずに、ヴェーダヴァッリの婚礼は進む・・・と、大暴れの顛末がニュースで流れる。それをみたアヒラーンダムおばーちゃん、ニュース映像を結婚式会場に流す。事情を説明するランガーチャリ。そうか、そうだったのか・・・とヴェーダヴァッリ・・・。

全てが終わり、全財産をランガーチャリに託し、故郷に帰るアルナーチャラム。そこには・・・。
（もちろん、ハッピーエンド）

【見どころ】

●　アルナーチャラムはラジニ演じる主人公の名前。ちょっと変わった名前。この名前が後で効いてくる。
●　富豪の息子だと思っていたアルナーチャラムには出生の秘密が、ってのは、ムトゥの逆パターン。ここで終わらずに、たどってみたらもっと凄い富豪だった。出来過ぎなのはインド映画ならでは。

●　３億ルピーを無駄遣いするのに「映画を作れば・・・」ってのは笑っちゃう。映画ってお金がかかるもんなんですねぇ。無駄遣いも結構大変なんだなぁ。「自分だったらどうする」って考えてみると面白い。

●　ポイントは二人のヒロイン。アルナーチャラムと結ばれるヴェーダヴァッリ（サウンダリヤー）は眼がとってもきれいでムトゥ、ヤジャマンに出ていたミーナにもちょっと似ているかな。
　　もう一人、アルナーチャラムに密かに想いを寄せるナンディニ（ランバー）はバタ臭い（？）顔。この人はとにかく「ダイナマイトバディ」である。●っぱい星人としては言うこと無し。サスペンダーでのダンスシーンがあるが、サスペンダーがタテ二本の線にならずに、弧を描いているのだ。もう、どうにでもして。
●　バスで猿に数珠玉を持って行かれて、悪巧みを知ることになる。転機はバスから。バスの車掌をしていたラジニゆえのお話だろうか。

●　ラストもちょっと力業でハッピーエンド。音楽はムトゥに比べると、インドの伝統的なメロディーが強調されているように思う。

両家のばーちゃん好対照

●　ヴィスヴァナーダン、あんな小細工に大金使うくらいなら、真っ当に生活しときゃいいのに。ヴィスヴァナーダン役のラグヴァランは、バーシャでも悪党、ムトゥでも悪い役。
（99.8.18　新宿・テアトル新宿にて）
（06.9.10　渋谷・イメージフォーラムにて）